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鮮やかな青
第3章 兄の手
「それより隆景、そんなところに立っていないで、こっちにおいで。中庭に綺麗な蝶がいてね、それは鮮やかな――」
私の怒りを、それより、と一言で片付け、兄は私に手招きする。庭に飛ぶ虫一匹に気が付くとは、つまりよそ見をしながら、ふらふら歩いていたという事だろうか。怒りを通り越して、私の頭は痛みを覚えていた。
と、私が頭を抱えていると、いつの間にか兄は私の目の前に立っていた。少しだけ高い目線から、覗き込む兄の目は一切の邪念がない。私の額に伸ばしてきた手は、想像以上に温かかった。
「なんだか顔が赤いな、熱はない?」
私の熱を確認するため、額を押さえる兄の行動。なんらおかしい事はない、兄として普通の事だ。だが、私はそれに邪な思いを抱いてしまう。この温かな手が、かつて大内の熱を擦り受け止めたのかもしれないと。
「兄様――」
「景さま、具合がよくないのですか?」
私の邪を断ち切ったのは、幼いともの声だった。怒られた、と勘違いししょげていたのに、その張本人である私を心配して立ち上がったのだ。向けられる視線に、感じるのは親愛だった。