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タワーマンションの恋人
第23章 * double bind
「奥原さーん、ちょっとこっちお願いします!」
外からスタッフが呼ぶ声がして、奥原さんは慌てて部屋から出ていった。
いつもなにかとタレントの世話を焼いてくれる奥原さん、華ちゃんとの仲介も彼女を通してだった。
マネージャーともちょっと違う、色んな現場にふらりと現れてはみんなのことを気にかけてくれる。
まぁ、世話焼きの姉、母親のような存在なんだと思う。
奥原さんが部屋から出てしばらくして机の上で俺のものじゃない、スマホが鳴った。
スマホを手に取り、廊下に出て奥原さんを探す。
「奥原さーん!スマホ鳴ってるよー!」
事務所の中、声をかけてみても返答は無くて。
ふと画面を見るとそこには“華”の表記。
もう少しで切れてしまう気がして、思わず画面に触れた。
「もしもし、華です。奥原さん電話くれました?」
電話口から聞こえるのは、もうすでに懐かしく感じる華ちゃんの声。
その声に反応していいのか、一瞬躊躇ってから声を発した。
「もしもし、ごめんね、華ちゃん。今奥原さんスマホ置いたまま、どっか行っちゃってっ…」
少しの間のあとに小さな声がした。
「……ハルキ?」
「うん、ハルキだよ。…っごめん、今奥原さん探すからちょっと待っててね。」
「ありがとう、」
「華ちゃん、元気?」
そう尋ねると「うん、元気だよ。」優しい声がして、胸の奥を掴まれる感覚。
もうこれ以上話をしたらいけない気がして、黙って奥原さんを探した。