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タワーマンションの恋人
第23章 * double bind
彼女の細い首に顔を埋めて思うのは、この肌に痕を残すことすら許されない関係をいつか、俺が終わらせたいということ。
深く考えると嫉妬で狂ってしまいそうだから、彼女の手をひいて車の後部座席に二人で転がりこんだ。
小さく鈍い音がして「いたっ!」と華ちゃんの声がする、恐らく車内に頭を打ったらしい。
「え?!大丈夫?どこ痛かった?」
「ん、大丈夫だよ、ありがとう」
そう答えて頭を擦る姿が暗いながらも見える。
「あー、痛かったよね。ごめんごめん。」と一緒になって頭を撫でれば手と手が絡む。
「本当に、ハルキは優しいね。」
そう彼女の声がして、真っ暗な車内で探るように指先が顔に触れ彼女の唇が重なった。
街頭すらない真っ暗な中、指先の感覚と、慣れてきた目でうっすらと見える彼女の輪郭を頼りに求めた。
「大丈夫かなっ…ここ、」
彼女の声が静まり返った周囲に溶けていく。
指先で彼女の唇を今度は俺がなぞって「大丈夫、もうあんまり人が立ち入らないって聞いてる。」秘事を話すように言えば「そっか」と吐息の混ざる声で言う。
鼻先と鼻先が触れれば彼女の呼吸を近くに感じる。
「好きだよ、華ちゃん。」
「わたしも、好き…ハルキ。」
少しの音もない、明かりすらないこの場所はひどく感覚が研ぎ澄まされて、全身で彼女の存在を感じることができる。
呼吸も声も熱も全てを余すことなく、感じたい。