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タワーマンションの恋人
第4章 * シオン
ダイニングに広げられたテイクアウトの料理。
どれも食欲をそそる香りがして、この2日間まともに食事を口に入れてなかったことに気がつく。
「…仕事、やっぱり大変?…だ、よね。」
「大変、といえば大変なんですけど…でも、なんかまだ実感がない、かな。」
取皿に食事を盛りながらも、なかなか口に運べない。
いつも何気なく行っている食べるという行為も欲求のひとつ、それなりに体力のいる行為なんだと思い知る。
「実感?」
「なんか、現実味がなくて。ケイタくんやシオンくんみたいな人と、あんな深く関わったことないから。まだ自分の身に起きたことって実感がない、かな。」
そう伝えると奥原さんはわたしの目をじっと見据えて言った。
「華。たくさん愛してもらいなさい。身も、もちろん心も。」
「…え?」
意外な言葉に驚いていると、奥原さんは続けた。
「女を輝かせるのは男、男を輝かせるのは女だと思うから。華は愛されて、彼らは華を愛して…お互いもっと光る人に、特別な人になるの。」
「…やっぱり、ちょっと荷が重いかも…」
不安をこぼせば、彼女は優しく笑って綺麗な指でわたしの頭をそっと撫でてくれた。
「私は、楽しみなの。いつもどこか自信なさ気で不安そうな華のこの表情が、どう変わって行くのか。」
この時、奥原さんはわたしのこと、どのくらい知っていたのだろう。
この仕事に就く前にある程度、身上調査をされているのだろうけど。
この仕事を引き受けた密かなるわたしの心情や過程すら知られていそうで驚いてしまった。
わたしは、彼女が言うようにこの先、変わって行けるのだろうか。
ほのかな不安と期待が胸の中で瞬いた。
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