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英理を調教 完全版
第9章 オリジナルビデオ撮影会
 朝の通学の電車。相変わらずぎゅうぎゅうに混雑している。冬は服が厚手になるから混雑具合は夏よりもひどい。
 俺は英理と向き合うようにして体を密着させて満員電車に揺られる。ただし今日は痴漢プレイはしていない。混雑がひどく英理の体に手を伸ばすことが出来なかったからだ。こういう日は他愛もない会話をする。一応でも俺と英理は恋人同士なのだから、普通に会話を交わすことももちろんある。

「あ、宿題忘れてた」
「え、数学の?」
「うん」
「見せてあげよっか。数学は五時間目だから時間あるよね」
「頼むよ」
「うん、分かった。あ、でも昼休みは…」

 英理が言いにくそうに言いよどむ。数学は五時間目だから昼休みに見せてもらうのがいちばんだが、昼休みは英理は自由に動けない。

 藤井に呼び出されるからだ。もう今となっては俺はそのことを知っているし、気付いていないのは当の藤井本人だけだ。

「その前にどこかの休み時間で見せてよ」
「うん、分かった…」

 ほんのわずか英理が身じろいだ。

「どうかした?」
「う、ううん…何でもないよ」

 もぞもぞと英理が腰を振る。混雑しきっている満員電車の中ではそもそもが自由に動けないが、それでも何かから逃げるようにぎゅっと俺に体を寄せてくる。
 俺より頭ひとつ分低い英理の顔のその向こう、俺達の親くらいの年齢のサラリーマン。

 俺と目が合うと意味深に小さく笑う。

 俺は悟った。この男、英理を触っている。痴漢している。

 そして俺は同時に気が付いた。このサラリーマンはいつも俺と英理の近くに立っていたことに。つまり彼は俺が英理を触るのをいつも見ていた。

 いや、思い返せば英理をいつも意味ありげな目で見ていなかったか?

 つまり、このサラリーマンは夏祭りのあの日に俺達を見ていたか、それとも山根さんをはじめとする小説サークルが運営するサイトを見たか。

 つまり彼は英理をずっと見ていた。いやらしい目で。そして今日のこのチャンスに英理を触っているのだ。
 彼は俺が英理を触られても怒らないし騒ぎもしないと思っている。そして実際その通りだ。いや、むしろ俺の知らないところで英理をもっと触ってほしいくらいだ。

 英理を最近悩ませているもの。それはナンパや痴漢にやたらと遭遇するのだということ。
 そしてそれは今、俺の目の前で行われている。
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