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不知夜月(いざよいづき)の夜に――
第1章 新月
『あの……』


窓際のカウンター席に並んで座る彼女が
やっぱり聞き取りにくい位の小さな声で
僕に話しかける


『やっぱり 帰ります』


濡れた洋服をしきりに気にし
椅子が濡れるのが申し訳ないと言う


『それに…
このまま雨に打たれたい…』


窓の外は
バケツを引っくり返したような
酷い雨が降りだしていた


『…ゲリラ豪雨だな…
少しだけ待ちなよ
小降りになったら止めないから』


『……そう…ですね…』



僕の横で
虚ろに外を眺める彼女は
雨の勢いに圧倒され
ハンカチを敷いた椅子にちょこんと座った



それからの時間は
無言のまま
ただ 暮れ行く窓からの景色と雨を見ていた





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