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すこし歪な愛の形
第1章 すこし歪な愛の形
――愛の形は、様々である。二人が幸せであるなら、どんなに歪であろうがそこに優劣はないのだ――
どちらかが不幸なら、もちろんそれは愛じゃないけどね。
部屋に戻ると、ちーちゃんはどこにもいなかった。もう出て行ってしまったのかと一瞬怖くなったけど、さすがにさっき別れるって言ったばっかりで出ていくのは無理だよね。僕はとりあえずテーブルの前に座った。
ちーちゃんのお絵描き用ソフトは片付けられているけど、散らばった紙はそのままだった。拾い上げて見てみると、それはこの前見つけた『苺田紋次郎』だった。
最初の案と違って、顔を大きくしたり目を可愛くしたり、色を変えてみたり服を変えてみたり。そんなところを変えて何が違うの? って聞きたくなるようなところまで、何回も書き直している。ちーちゃんの頑張りが、散らばった紙全部に残されていた。
僕は煙管を取り出して、火をつける。どのイラストでも必ず紋次郎がくわえている、煙管。ちーちゃんのこだわりを、紋次郎と同じ味を、無性に感じたくなったんだ。
「ちーちゃん、早く帰ってこないかな……」