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あなたが教えてくれたこと
第4章 4
いけない、と紫遠は慌てて夫と息子の間に入った。
口答えはおろか、自分の意にそぐわない返答をしただけで正嗣は激昂する。しかし彼女の予想に反し、正嗣は動かなかった。
様子を見ているだけなのか、怒りよりも驚きが勝っているのか?
いずれにせよ人の言い分を聞くような人間ではない。

「私が悪いんです。勉強ばかりじゃ息が詰まると思って、買い与えたんですっ。すいませんっ」

智哉にだけは手を出させない。
背後の息子を庇うように両手を広げて正嗣と対峙した。

「愚か者がっ!」

頬を張るなどという生易しいものではなかった。横顔を張り倒す勢いで叩かれ、紫遠は悲鳴を漏らして床に倒れた。

「お母さんっ!」

智哉が慌てて駆け寄ってきた。
痛みは少し遅れて耳から頬、顎に広がっていく。
地下室での凌辱はいかに力を抜いて叩かれていたのかを、改めて知らされた。

正嗣は冷たい視線を浴びせてから、背を向けて立ち去っていった。

「お母さん、大丈夫?」
「ええ。大丈夫よ、これくらい」

口の中に広がる鉄の匂いが溢れないように、口をきつく結んで笑った。
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