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あなたが教えてくれたこと
第5章 5
立ち止まると後ろに冨士雄がいるようで、振り返りもせずに走った。
『逃げるって、どこにっ』
少し冷静に考える。
友達はこの辺りに住んでいない。
ご近所に匿ってもらえば家の恥を明かさねばならない。
実家は論外だ。
娘を嫁というかたちで捧げた両親は、ことを丸く収めようとするだけに違いない。
脚を縺れさせながら、彼女が辿り着いたのは遼平の住むアパートだった。
「開けて下さいっ! お願いします!」
義父がすぐそこまで追い掛けてきているという妄想に取り憑かれた紫遠はインターフォンを押すのももどかしく、ドアを叩いて叫ぶ。
「どうしたんですか!?」
遼平は驚きながらも彼女を素早く部屋に入れて鍵をかけた。
全速力で駆けてきた紫遠は肩で息をしながら、ほとんど倒れるように床に腰を下ろす。
「大丈夫ですか?」
目の前にミネラルウォーターのペットボトルが差し出される。
遼平は戸惑いと驚きの眼差しで見詰めながら背中を擦ってくれた。
その瞬間、涙が溢れる。渡された柔らかなペットボトルをグシャッと握り、嗚咽を漏らしてしまっていた。
『逃げるって、どこにっ』
少し冷静に考える。
友達はこの辺りに住んでいない。
ご近所に匿ってもらえば家の恥を明かさねばならない。
実家は論外だ。
娘を嫁というかたちで捧げた両親は、ことを丸く収めようとするだけに違いない。
脚を縺れさせながら、彼女が辿り着いたのは遼平の住むアパートだった。
「開けて下さいっ! お願いします!」
義父がすぐそこまで追い掛けてきているという妄想に取り憑かれた紫遠はインターフォンを押すのももどかしく、ドアを叩いて叫ぶ。
「どうしたんですか!?」
遼平は驚きながらも彼女を素早く部屋に入れて鍵をかけた。
全速力で駆けてきた紫遠は肩で息をしながら、ほとんど倒れるように床に腰を下ろす。
「大丈夫ですか?」
目の前にミネラルウォーターのペットボトルが差し出される。
遼平は戸惑いと驚きの眼差しで見詰めながら背中を擦ってくれた。
その瞬間、涙が溢れる。渡された柔らかなペットボトルをグシャッと握り、嗚咽を漏らしてしまっていた。