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あなたが教えてくれたこと
第5章 5
彼は何も訊いてこないが、事情を説明しないわけにもいかない。
何から説明すればいいのかと頭を整理しているうちに、自分の無力が情けなくなってきた。
家の恥を晒すのは躊躇われたが、ボツボツと切れ切れに濁しながら伝えた。

「私って、ほんと駄目。一人で何にも出来ない……」

唇を噛みながら己を嗤う。

「怖くって、何も出来なくて、先生のところに逃げてきて……」
「俺は嬉しかったですよ」
「えっ?」
「俺を頼ってきてくれて、嬉しかった」

彼の淡い黒色の瞳から視線を外せなかった。

「なんでも抱え込んで、自分を責めるのは止めてください。辛いときは、頼ればいい。そして」

彼の指が顎の下に添えられ、軽く上げられる。

「その頼る人が俺だったら、嬉しい」

ゆっくりと彼の顔が近付く。そして唇と唇が重なって、すぐに離された。

まるで中学生のように臆病なキスだった。何もなかったとごまかせる程度の、一瞬だけの触れ合い。
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