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あなたが教えてくれたこと
第5章 5
彼にキスされて怒るとか、戸惑うとか、そういう感情は生まれなかった。
そしてようやく自分自身で認めることが出来た。

『私は遼平さんが好きなんだ』と。

それは妻として赦されることではない。
ましてや責任ある母親としてなら、もっと赦されることじゃなかった。

『わたし、どうかしてる』

心臓が異常を来したように跳ねる。あまりの鼓動の速さに恐怖すら覚えるほどに。
だが怖いのに、心が弾んでしまう。

「好きです、紫遠さん」

彼の唇が再度近付いてきて、慌てて顔を背けてキスを避けた。

「ごめんなさい……嬉しいですけど、応えられません。本当にごめんなさいっ……」

自分がどんな仕打ちを受けていようが、たとえ夫が浴びるほど浮気をしていたとしても、自分が不貞を冒していい理由にはならない。

「俺が、嫌いですか?」
「そういう訊き方、狡い」

彼は優しく顔を傾けさせ、視線を合わせてきた。

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