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あなたが教えてくれたこと
第5章 5
「答えて?」
「私は妻です。それに母親でもあります。好きとか、嫌いとか、そういう問題じゃないんです」

目を逸らさずに答えると、遼平は小さく首を振った。

「そうじゃなくて。俺が好きなのか、嫌いなのかを訊いてるんです」

恋をするというのは、思っていたよりもずっと苦しいものだった。

「答える必要なんてありません」

それが精一杯だった。十四歳も離れた青年に、たとえ独身だったとしても素直に好きだなんて言える自信がなかった。
それでも彼の目は赦してくれない。心を覗くように視線を離してはくれなかった。

「困らせないで」

少し睨むがそんな虚勢が通じることもなかった。

「色んなことが絡み合って、人生とは簡単じゃない。確かにそうかもしれない。けど、そういう風に考えて自分自身で複雑にしてるだけかもしれない。紫遠さんは自分を犠牲にして全てを丸く収めようとしている」

甘く愛だけを語ってくれたら、もっと気が楽だった。そんなのは若者だけの特権だと笑い流し、適当に誤魔化して遣り過ごせる。
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