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あなたが教えてくれたこと
第5章 5
『遼平さん』と呼びかけそうになり、慌てて言葉を飲み込む。

「先生。ここで終わりにしましょう。でないと、わたし」

錫色の瞳が曇りなく注がれ、眩しすぎた。
視線を下げて額を彼の胸板に当てて呟く。

「帰り方が、分からなくなりそうで」

恋に気付いた時から行き着く先が見えている。そんな悲しい恋慕だった。

「今だけ……俺のことだけ考えて……」
「そういうの、無理なんです。ごめんなさい」
「気持ちに素直になれない?」
「そうじゃなくて……」

後戻り出来ないかもしれない。
そんな覚悟を決めて顔を上げて彼の瞳を見た。

「今だけ、なんてそんな器用なこと無理なんです。あなたに抱かれたら、絶対私、ずっとあなたのことばかり考えてしまうから」
「紫遠さん……」

見つめ合う顔が引き寄せられるのは、もはや止められなかった。
唇が重なり、胸から腹まで隙間なく密着し、息継ぎもせずに抱き締め合っていた。
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