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あなたが教えてくれたこと
第6章 6
そんなことが頭を過ぎったが苦笑いで否定した。

『いいえ……あの日、遼平さんのところに逃げ込まなくても、いずれはこうなっていた』

それは愛が芽生えた悦びを祝福するような気持ちでは、もちろんなかった。むしろ抗えない運命に諦めるような暗澹たる思いに近い。

遼平と結ばれた後、紫遠は義父の待つこの家へとすぐに戻っていた。
遼平は引き留めたが、今戻らねば全てを失ってしまう。そう思ったからだ。

「どうしても戻るなら」と諦めた彼は紫遠にアドバイスをくれた。なんと言われても、義父にこう言い続けろという言葉だった。 

「このことは警察に言います」

そう伝えたときの冨士雄の怯えた顔は今でも脳裏に焼き付いている。
あれほど狼狽えた義父の顔は、義母が死んだときでさえ見せたことがなかった。
遼平が予想した通り、富士雄は証拠がないとか、出来るものならやってみろ、という脅し文句を捲し立ててきた。しかし言われたとおりにそれらを無視して紫遠は『警察沙汰』を主張し続けた。

「……それだけは、勘弁してくれ」

義父ははじめて、紫遠に頭を下げた。
それ以降、冨士雄は顔をあわそうともせず、逃げるように暮らしている。
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