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第1章 新居
「分かった!分かったから...」

今朝はいつにも増して羚汰が仕掛けてきて、顔が火照りっぱなしだ。

首を振って逃れようとする稜を、羚汰がぎゅううっと抱きしめる。

「やった!」

「ちょっと、危ないってば」

「あー。マジで幸せすぎるー」

肩に羚汰の顔が乗って、稜の髪をそのまま顔でかき分けるようにして匂いを嗅いでいる。
くすぐったくて、本気で危ないのに、羚汰が嬉しそうで振り払えない。

「羚汰、服に泡がついちゃうから」

「んー?んなこと言ったって、ココからエッチな匂いがしてるよ」

首筋から耳にかけて羚汰の鼻がこすり付けるようにして動いてゆく。

「このまま、ここでシよっか」

「何言ってんの。遅刻しちゃうよ」

羚汰の息が首筋にかかって、稜もそんな気分になってくる。

時計を見ると、稜はともかく、羚汰は出かける時間だ。
いつもなら30分遅い稜が洗濯物を干してから遅れて家を出るのだが、今日はもう干してある。

「ね、今日は一緒に行こう?」

最寄りの駅から乗り換える大きな駅までは、一緒の路線だ。

「一緒に?」

「そう。ね?もう出なきゃ。ほら、行こ?」

腕の力が弱まったのを見計らって羚汰の方へぐるりと体を向ける。
タオルで拭いたばかりの手を、羚汰の火照った頬に当てる。

「一緒に行くの、初めてじゃない?」

こう言うと嬉しそうに『うん』と言うと思ったのに、羚汰がまたぎゅううっと抱きしめ、「はぁああ〜」と大きく息を吐いている。

「ちょっと羚汰?」

「一緒にイきたいとか、連呼し過ぎだから」

しばらく意味が分からなくて、立ち尽くしてしまう。

「違う!違うよ!!」

慌てて、羚汰の胸をタップする。

「うん。そーだろうなとは、思ったけど」

笑いながら羚汰が少し体を離す。

「うん。行こう」

なんとか衝動を押さえたらしい。

見つめ合って小さく笑いあって軽いキスをする。

「帰ったら、ココでしよーね?」

「え、ほんとに?」

手を繋いで部屋を進み、それぞれの荷物と弁当袋を拾い上げる。

鍵を閉めて、鉄製の細い外階段を下りてゆく。

にまにまっと幸せそうに笑う羚汰に、稜も反論出来ない。

「もー」

「とかいいつつ、楽しみなんでしょ」

「違う!」

「またまたぁ」

駅までの道を、急ぎながらも手を繋いで歩いて行く。
笑い合って、時折肩をぶつけながら。
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