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第5章 Matrimonio
「そのつもりだけどさぁ。最近、寝るとき1人で寒いんだもんー」

両親のたっての願いにより、この一週間ほど稜は2人で住むマンションを出て、実家で暮らしいている。

直接稜には言わないのだが、父親の強い願望で。
『家から嫁に出す』というのに頑なにといってもいいほどの拘りがあるらしい。

もう同棲してしまっている2人からしてみたら意味不明な事なのだが、古い考えの両親に「頼むから」と懇願されてしまったのだ。

同棲を許して貰った手前もあるし、そのぐらいの願いは聞いてあげたら。
羚汰がそう言ってくれたのもある。

仕事も退職間近で有給消化もあって。

しぶしぶ稜は一時的にマンションから離れているのである。

「でも、オカゲで卒論が結構進んでる」

稜が実家に帰ったこの一週間ほど、静かで勉強が捗るらしい。

「稜が居たら、それどころじゃなくなるしね」

「ひどっ」

確かに、結婚式の準備で、部屋に色々広げまくって。
あちこちに電話かけたり。
印刷したり。何やらシール貼ったり。
勉強してる羚汰の為に静かにしようと思ってはいても、結局バタバタと落ち着かなかった。

「だって。稜がそばにいたら、すげーシタくなんだもん」

耳元でそう囁かれて、顔が一気に赤くなる。

人の目が気になってキョロキョロしているウチに、羚汰の腕が体に巻きついてきていて。
後ろから抱き抱えられてしまった。
マフラーに遮られてはいるものの、羚汰の顔が首筋に埋められている。

「はぁー。やっぱ、暖かい」

暖を取っているのと同時に、匂いを嗅がれている気がする。
バスで汗をかいているので、あまり...というか絶対いい匂いなハズがない。

「羚汰っ」

小声で話す稜と違い、羚汰は悪びれた様子は全くなく普通の声量だ。

「ん?」

「ん、じゃない!っていうか、窓口どこ?」

羚汰に阻まれて真っ直ぐ歩けないから、目的地を見失っていた。

羚汰は楽しそうにくすくす笑っている。

「ここじゃん?」

意外とすぐ近くにその窓口はあった。

いよいよだ。

朝からー、というか、ここ数日緊張はしっぱなしな気がする。

羚汰がゴソゴソと書類を取り出しているのを見て、稜も慌てて自分のカバンから身分証を取り出す。

「「お願いします」」

「はい。...大丈夫ですね。おめでとうございます」

あっさりと婚姻届が受理された。
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