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第5章 Matrimonio
そんなもやもやが嫌で、羚汰たちから視線を外し椅子に座り直す。

ただ笑顔で会話してるだけなのに、嫉妬をするなんて恥ずかしい。

カバンからハンカチを取り出して、汗をぬぐった。
今日はなんだか色んな汗をかきっぱなしだ。

そのままそのハンカチで顔を仰ぐ。

店内のエアコンがよく効いてて暖か過ぎる。
きっとそうに違いない。


ふと、何やらこちらを見ている視線に気づいた。

子ども用の背の高い椅子にようやく座った女の子が、口に指を目いっぱい入れてこちらを見ている。

まだ赤ちゃんと呼んでいい月齢だろう。
くるくるの前髪を、可愛いピンクの花の付いたピンで留めてある。

弟の空人のトコの水花(みか)ちゃんと同じぐらいか、ちょっと大きいぐらいだ。

その赤ん坊が、恐らく稜がパタパタと動かしていたハンカチに目がいったのだろう。

ほっぺがぷくぷくで、ちょー可愛い!!

その可愛らしさに笑顔を向けると、にこーっと笑い返してくれた。

笑顔がまた可愛い。

指が口に入ったままで、ヨダレだらけだけど。

その子の椅子に手を掛けてはいるものの、隣のお母さんは向かいに座るおばあちゃんらしき人と話し込んでいる。

広げたハンカチをヒラヒラさせて、そこからゆっくり顔を出してみる。

「うー、うー」

と、どうやらお気に召した様子だ。

彼女が笑うと、自然と稜も笑顔になる。

何回かそうやって遊んでいると、くすくすと笑い声が聞こえてきた。

羚汰が、笑いを堪えて戻って来たのだ。

なんというタイミング。

恥ずかしいけど、ここは開き直る。

だって笑顔がすっごい可愛いんだもの。

「ちょーーー可愛い」

赤ちゃんに気を使ってか、座りながら身を乗り出すように顔を近づけて話しかけてくる。

「ね!」

分かってくれて嬉しい。
羚汰もお子ちゃま好きだものね。

「俺の奥さんが」

ハンカチを持っていたハズの左手がいつの間にか掴まれていて、羚汰の唇が触れる。

「!!!」

顔を上げた羚汰は、赤ちゃんに負けないぐらいの笑顔で。

何も言い返せない。

「ん?」

「ビックリしたー」

でも、羚汰の笑顔につられて、笑えてくる。

「本当羚汰といると、驚かせられっぱなし」

「えー。俺の方が驚かせられっぱなしだよ?今だって、トイレから戻ると、1人で変顔してんだもん」

変顔!?
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