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第5章 Matrimonio
「!!」

稜の反応を見て、羚汰がまた楽しそうに笑う。

「だって。濃厚なヤツしたら、稜、その後立ってられなくなっちゃうかもだし?」

ぽかんとする稜の顔に、いつの間にか真剣な顔の羚汰が手を伸ばして触れる。

「それは夜まで取っておく」

顔をするりと撫でた指先が、いつの間にか下唇をふにふにと柔らかく押している。

吐息が微かに漏れて、羚汰の親指にかかってしまう。

「カクゴしといて?」

そう言って眼差しは真剣なまま、にっこりと笑う。

その妖艶な迫力に引き寄せられるように、視線を絡ませたままゆっくり首を縦に振った。

いつの間にか、羚汰の指が稜の指と深くからまって、テーブルの上にある。
ただ指を絡めているだけなのに、その熱がとても厭らしく感じる。


「あーーー!!ヤバイ。マジ、ヤバイ。ホント今すぐ連れて帰りたい!」

殊更明るい声で羚汰が雰囲気を壊し、稜も我に返る。

「ね。今スグ、部屋戻ってしよ?」

「だめだよ!羚汰、大学戻るんでしょ。私もこの後、ネイルに行かなきゃ」

時間を確認すると、本当にネイルアートの予約の時間間近だ。
普段ネイルアートなどしない稜も、結婚式にはしてみようかと思ったのだ。

「なんだよー。ネイルって~」

駄々をこねる羚汰をけしかけるように、コートを掴み、伝票をつかみ、席から立ち上がる。

羚汰もしぶしぶ立ち上がり、2人でカフェを後にした。


嫌々歩く羚汰の手を引っ張り、駅までなんとか歩く。

口ではぶつぶつ言っても、この状態を羚汰も楽しんでいるように思えるのだが。


「はい。じゃ、ここで。私今からこのお店だから」

「ん」

ぶすくれた顔の羚汰に、まだ手元に持っていたマフラーを巻きつける。

「ホントに行くんだ」

「行くよ」

マフラーの中で、なにやら“くっそー”とか“明後日覚えてろよ”とかぶつぶつ言っている。

ぐるぐる顔に被るようにしていたマフラーを、少し整えて。

周りを素早く伺ってから、羚汰の唇にチュっと重ねた。

「!!!」

マフラーを巻いて手を伸ばしてる風だし、きっと誰も見えてない。

「じゃ!」

でも恥ずかしくて、羚汰の驚いた反応を軽く感じながらも、踵を返し慌ててネイル店に滑り込んだ。



明後日...。大丈夫かな。
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