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夢…獏の喰わぬ夢
第8章 変化
「半人前で、爺さんに留守任せて旅行出来ないと、カミサンには何もしてやれなかった。
そのうち爺さんが倒れて、カミサンは店番の他に介護までしなければならない、
俺と一緒になって苦労ばかりかけた。
爺さんは体は不自由になっても口ばかり達者でな。
いいときは、配達人の若い衆を抱えて忙しいばかりの時もあったが、
お得意さんってのがお互いに必要ない時代になっちまったんだな。
店をたたもうって爺さんに話したが、
俺の目の黒いうちは看板下ろすのは許さねえって意地はりやがって、食うに困るような生活も経験した。
そのうち、爺さんが自分が死んだ時に、開ける酒だって、
毎年正月に新酒を用意するようになった。
何年かは、これで一年生き延びれたって大晦日に開けて、
正月の三が日には飲んでしまう。
ってのが続いたな。俺達にはちっとも呑ませちゃくれない。
憎たらしい爺さんだと思ったよ。
それがある年、正月に新酒を用意して神棚に載せ、去年の酒を飲み干す時、
「最後の酒くらい一緒に呑むか」
とカミサンに注ぎ、俺に注いだ。
レディーファーストなんて、女をつけあがらせるだけだってのが口癖だったから、カミサンは気味悪がってたよ。