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夢…獏の喰わぬ夢
第3章 春雨
「寒くなってきたわね。」
「近くの喫茶店に寄らない?美味しいお弁当の御礼にお茶でも、」
例え騙されていても彼女と居るだけで楽しい自分になれる。
彼女は、家族に理解されなかったことを思い出して、涙していたのかもしれない。
黙ったまま頷いた。
喫茶店に入り、
お茶で体が温まった途端、外は雨が降り出した。
喫茶店からアパートまで5分の距離だ。
なるべく小雨になるのを待ってアパートで僕の傘を貸そう。
家に彼女が来る予定はなかったが、
突然の雨に彼女も、
「貸してもらうわ。」
と答えた。
ものの5分、小雨を待って店を出た筈が、
途中から、また激しくなり、さっきまで腕を組むのも気兼ねしていた僕が、
彼女を後ろから抱きしめて自分が傘になろうと頑張っていた。
アパートにつく頃には2人ともびしょ濡れだった。
非常事態に言葉もなくなり、玄関に入ると彼女に
「タオル持ってくるから、そこで待ってて、」
と部屋に入った。
慌てたにしても何て配慮のない言葉だったろう。
タオルを取って戻ると、彼女はぶるぶる震えながら玄関に突っ立たされていた。