この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
夢…獏の喰わぬ夢
第3章 春雨
頬には明らかに雨でないものが流れていた。
「ごめん。寒かったね。」
タオルを手渡すつもりでいた僕だが、彼女の気持ちを確認せずにタオルを広げて彼女をくるみ、その上から抱きしめていた。
彼女の頬に流れていたものはとても温かい涙だった。
どのくらい抱きしめていただろう。
僕の鼓動が彼女に聴かれてしまいそうで意識したその時、彼女の鼓動が聞こえてきた。
この時も僕達はお互いの気持ちを伝えなかった。
あれだけ不思議な告白を受け止めたのに、「好き」の一言が出なかった。
互いが鼓動を確認しあったら、恥ずかしくて少し離れた。
同時に視線が合い、こんな間近で彼女の瞳を見たことはなく、吸い込まれるようにまた彼女を抱きしめていた。