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初戀 〜真珠浪漫物語 番外編〜
第2章 恋の距離
…今日は舞台を観るだけにしようと思ったんだけど…。
…やっぱり待ってしまったな…。
楽屋口の煉瓦の壁に寄りかかりながら、当麻は苦笑いする。
…こうして待っていても、ちらっと僕を見てツンと澄まして行ってしまうのだけど…。
…でも、待っていたいんだ。
舞台の上の化粧をして華やかな衣装を纏った歌手の綾香も凄く綺麗だけど、化粧をおとして、普段着の綾香もまた透明感があって本当に綺麗なんだ。
当麻は思い返してつい微笑んでしまう。
…と、楽屋口のドアが開いた。
彼女だ!
化粧っ気のない顔、後ろに一つに束ねた髪、白いブラウスに黒いロングスカート…
もうだいぶ暖かいので、ストールは巻いてない。
白いブラウスの豊かな胸のラインが露わで、ドキドキする。
…何見てんだよ、望己!
自己嫌悪に下を向く。
…もう通り過ぎたかな…と思った時のことだ。
石畳、当麻の黒いイタリー製の革靴の靴先の前に、黒いローヒールの白い脚…。
…え?
「…バイト先までならいい」
ぶすっとした声が聞こえた。
驚いて頭を上げる。
怒ったような…けれどどこか緊張したような表情の綾香が目の前に立って、当麻を見つめている。
「え?い、今なんて?」
「…バイト先までなら一緒に歩いてもいい。…嫌ならいいけど…」
行ってしまおうとする綾香に慌てて追いすがる。
「ま、待って!いいよ、もちろん!歩こう!嬉しいな…あの…ありがとう!」
気持ちが舞い上がって何を言っているのか、自分でもよくわからない。
綾香はちらりと当麻を見て、表情も変えずに歩き出す。
…でも、どことなく照れているような気がするのは僕の自惚れかな…。
当麻は矢継ぎ早に質問する。
「…バイト先ってどこ?」
「湯島」
「よく歩けるね…結構あるよ?」
「…電車賃もったいないもん」
「湯島のどこで働いているの?」
「フランス料理店」
「何ていうお店?」
「ボンシャス」
「知ってる!僕のゼミの先輩が美味しいって言ってた。あと、凄く美人の女給さんがいるって…。綾香さんのことだったんだ!」
綾香は怒ったようにそっぽを向く。
「人違いじゃない?」
「綾香さんのことだよ。間違いないさ。…ねえ、今度僕も食べに行っていい?」
綾香はすぐ様、首を振る。
「だめ!」
「なんで?」
綾香は子供のように唇を尖らせる。
「…知り合いが来ると緊張するから!」
…知り合いか…。
ちょっと嬉しくなる。
…やっぱり待ってしまったな…。
楽屋口の煉瓦の壁に寄りかかりながら、当麻は苦笑いする。
…こうして待っていても、ちらっと僕を見てツンと澄まして行ってしまうのだけど…。
…でも、待っていたいんだ。
舞台の上の化粧をして華やかな衣装を纏った歌手の綾香も凄く綺麗だけど、化粧をおとして、普段着の綾香もまた透明感があって本当に綺麗なんだ。
当麻は思い返してつい微笑んでしまう。
…と、楽屋口のドアが開いた。
彼女だ!
化粧っ気のない顔、後ろに一つに束ねた髪、白いブラウスに黒いロングスカート…
もうだいぶ暖かいので、ストールは巻いてない。
白いブラウスの豊かな胸のラインが露わで、ドキドキする。
…何見てんだよ、望己!
自己嫌悪に下を向く。
…もう通り過ぎたかな…と思った時のことだ。
石畳、当麻の黒いイタリー製の革靴の靴先の前に、黒いローヒールの白い脚…。
…え?
「…バイト先までならいい」
ぶすっとした声が聞こえた。
驚いて頭を上げる。
怒ったような…けれどどこか緊張したような表情の綾香が目の前に立って、当麻を見つめている。
「え?い、今なんて?」
「…バイト先までなら一緒に歩いてもいい。…嫌ならいいけど…」
行ってしまおうとする綾香に慌てて追いすがる。
「ま、待って!いいよ、もちろん!歩こう!嬉しいな…あの…ありがとう!」
気持ちが舞い上がって何を言っているのか、自分でもよくわからない。
綾香はちらりと当麻を見て、表情も変えずに歩き出す。
…でも、どことなく照れているような気がするのは僕の自惚れかな…。
当麻は矢継ぎ早に質問する。
「…バイト先ってどこ?」
「湯島」
「よく歩けるね…結構あるよ?」
「…電車賃もったいないもん」
「湯島のどこで働いているの?」
「フランス料理店」
「何ていうお店?」
「ボンシャス」
「知ってる!僕のゼミの先輩が美味しいって言ってた。あと、凄く美人の女給さんがいるって…。綾香さんのことだったんだ!」
綾香は怒ったようにそっぽを向く。
「人違いじゃない?」
「綾香さんのことだよ。間違いないさ。…ねえ、今度僕も食べに行っていい?」
綾香はすぐ様、首を振る。
「だめ!」
「なんで?」
綾香は子供のように唇を尖らせる。
「…知り合いが来ると緊張するから!」
…知り合いか…。
ちょっと嬉しくなる。