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初戀 〜真珠浪漫物語 番外編〜
第2章 恋の距離
「…お店によく帝大生や先生達が来るよ」
綾香の方から話しかけてくれた。
当麻は嬉しくて思わず、笑みが溢れる。
「大学から近いからね。ゼミの会食や教授会で使われるって聞いた」
「…みんな頭良さそうでさ…品が良くて…私なんかとは別世界の人だなあ…て」
綾香は寂しげに笑う。
当麻は慌てる。
「そんなことないよ。…帝大は地方の優秀な学生も沢山いる。…あまり実家が裕福でない学生は奨学金を貰いながら通ったり…みんながみんな金持ちじゃないよ」
綾香はその綺麗な瞳でちらりと当麻を見る。
「…でも、貴方は少なくともお金持ちだわ。…私とは違う…」
「…」
返す言葉がない。
暫くして、綾香は少し気遣わしげな表情で尋ねる。
「…貴方、しょっちゅううちの店に通っているけど…」
…もう来ないでと言われるのかな…とどきりとした。
「ちゃんと授業出てるの?…私、大学生なのに授業サボる人嫌いだからね。…勉強したくてもできない子は沢山いるのよ」
当麻は慌てて、答える。
「ちゃんと出てるよ!カフェには授業が終わってから来てるから大丈夫なんだ」
「…ならいいけどさ…」
ちょっとほっとしたような顔をした。
…もしかして…心配してくれてる?…のかな。
当麻の心が温かくなる。
この勢いで言ってしまおうと、当麻は口を開く。
「…あのさ、僕の名前は当麻…当麻望己って言うんだ…あの…良かったら…名前で呼んで貰えたら嬉しいんだけど…」
綾香が当麻を見上げる。
…だめかな?…と、はらはらした時…
「…のぞみってどう書くの?」
「…希望の望に己れ」
綾香は小さく笑った。
それはとても素直な笑いだった。
「…いい名前だね。…貴方らしい」
天にも昇る心地とはこういう気持ちなのかと当麻は思った。
今日ほど、命名してくれた父親に感謝したことはない。
「そ、そうかな…ありがとう…あ、あの…綾香さんの字は?」
白く綺麗な指が空に文字を書く。
「綾織の綾に香り」
「…綺麗な名前だね…綾香さんにぴったりだ…」
当麻はうっとりと溜息を吐く。
綾香は俯いた。
束ねた美しい髪の間から見える透き通るような耳朶が、桜色に染まっていた。
…あれ…もしかして、照れてる?
その時、聖橋近くのニコライ堂の鐘が、厳かに鳴り始めた。
綾香は顔を上げる。
夕焼けに照らされたその横顔は、ルーブル美術館で見たルーベンスの聖母像のように美しかった。
綾香の方から話しかけてくれた。
当麻は嬉しくて思わず、笑みが溢れる。
「大学から近いからね。ゼミの会食や教授会で使われるって聞いた」
「…みんな頭良さそうでさ…品が良くて…私なんかとは別世界の人だなあ…て」
綾香は寂しげに笑う。
当麻は慌てる。
「そんなことないよ。…帝大は地方の優秀な学生も沢山いる。…あまり実家が裕福でない学生は奨学金を貰いながら通ったり…みんながみんな金持ちじゃないよ」
綾香はその綺麗な瞳でちらりと当麻を見る。
「…でも、貴方は少なくともお金持ちだわ。…私とは違う…」
「…」
返す言葉がない。
暫くして、綾香は少し気遣わしげな表情で尋ねる。
「…貴方、しょっちゅううちの店に通っているけど…」
…もう来ないでと言われるのかな…とどきりとした。
「ちゃんと授業出てるの?…私、大学生なのに授業サボる人嫌いだからね。…勉強したくてもできない子は沢山いるのよ」
当麻は慌てて、答える。
「ちゃんと出てるよ!カフェには授業が終わってから来てるから大丈夫なんだ」
「…ならいいけどさ…」
ちょっとほっとしたような顔をした。
…もしかして…心配してくれてる?…のかな。
当麻の心が温かくなる。
この勢いで言ってしまおうと、当麻は口を開く。
「…あのさ、僕の名前は当麻…当麻望己って言うんだ…あの…良かったら…名前で呼んで貰えたら嬉しいんだけど…」
綾香が当麻を見上げる。
…だめかな?…と、はらはらした時…
「…のぞみってどう書くの?」
「…希望の望に己れ」
綾香は小さく笑った。
それはとても素直な笑いだった。
「…いい名前だね。…貴方らしい」
天にも昇る心地とはこういう気持ちなのかと当麻は思った。
今日ほど、命名してくれた父親に感謝したことはない。
「そ、そうかな…ありがとう…あ、あの…綾香さんの字は?」
白く綺麗な指が空に文字を書く。
「綾織の綾に香り」
「…綺麗な名前だね…綾香さんにぴったりだ…」
当麻はうっとりと溜息を吐く。
綾香は俯いた。
束ねた美しい髪の間から見える透き通るような耳朶が、桜色に染まっていた。
…あれ…もしかして、照れてる?
その時、聖橋近くのニコライ堂の鐘が、厳かに鳴り始めた。
綾香は顔を上げる。
夕焼けに照らされたその横顔は、ルーブル美術館で見たルーベンスの聖母像のように美しかった。