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初戀 〜真珠浪漫物語 番外編〜
第3章 恋のためいき
店内の客全員の祝福を受け、散々賑やかに送り出されながら、当麻と綾香は定食屋を後にした。
夕方からフランス料理店のバイトに入る綾香を送りがてら、湯島への道を歩く。

「なんだかごめんね…落ち着かなかったよね」
平謝りに謝ると、綾香は首を振り笑った。
「ちっとも!…楽しかったわ。みんな、良い人だね。帝大生ってもっとお高くとまっているのかと思ってた」
「いろんな学生がいるよ。地方の学生もいるし、何浪もして入る学生もいるし…何年も留年して、大学の主みたいな学生もいる。…外国人留学生もいるしね。大半はバイトをして学費を稼いだりして頑張っている苦学生だ」
「へえ…帝大生もそうなんだ…」
「うん。だから、綾香さんを見て応援したくなるんだと思う。…帝大生にも結構、綾香さんのファンがいてさ。こないだカフェに顔見知りがいて焦ったよ。…うかうかしていられない!てさ」
綾香は可笑しそうに笑った。
「何を心配しているの?」
「…だってさ、僕なんて頼りないひよっ子だし…」
…本当にそう思っているのかしら。
こんなにハンサムで、頭が良くて、お坊ちゃまで、そしてすごく優しくて、誰が見ても素敵な人なのに…。
綾香はいたずらっぽい笑みを浮かべ、当麻に近づく。
「…おまじないしてあげようか?」
「…おまじない?」
きょとんとした顔をする当麻。
「…目を閉じて…」
素直に目を閉じる当麻。
綾香は背伸びをして、そっと当麻の頬にキスをする。
「わっ‼︎」
はっと目を見開き、びっくりしたように綾香を見つめる当麻。
「…自信が持てるおまじない」
「あ、綾香さん!」
綾香は耳元で囁く。
「…大好きよ。望己さん」
あっと思った時には、綾香はそのまま駆け出して、行ってしまった。
「綾香さん‼︎」
綾香は立ち止まり、くるりと振り返り、恥ずかしそうに両手で顔を覆う。
そして、ぱっとお日様が射したように笑って見せ、再び走り出し、人混みの中へと消えていった。
「…なんて…なんて可愛いんだ!綾香さん‼︎」
当麻は自分の身体を抱きしめ、身悶えた。

通り掛かりの老婦人が、眼鏡を上げながらジロジロと当麻を見つめる。
当麻は、咳払いして誤魔化し、綾香の姿が消えても尚、何時迄も何時迄も見送り続けた。
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