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月の川 〜真珠浪漫物語 番外編〜
第6章 あの月の頂で
梨央は切れ長の美しい瞳に一瞬、秘密めいた淫らな笑みを浮かべ細い指先で強く月城の手を握りしめると素早く離し、綾香の胸に抱きついた。
「…お姉様…いじわる…こんなところで…梨央に恥ずかしいことばかりさせて…」
艶っぽい眼差しで綾香を睨む。
「…貴女が余りに可愛いからつい虐めたくなるの…貴女のせいよ…」
綾香は抗議しようとする梨央の唇を唇で塞ぎ、不満をくちづけで絡めとる。
「…んっ…お姉様…」
綾香はくちづけだけで陶酔の表情を浮かべる梨央の顔を両手で包み込み、優しく撫でる。
「本当に可愛い子…食べてしまいたいわ…ねえ、月城…私の気持ち、分かるでしょう?」
既に二人からは離れた位置で控える月城に声をかける。
月城は無言でひそやかに微笑んだ。

…とその時、別荘番のメイドの声に混じり、一際良く通る明るい声が聞こえてきた。
「…やあ、やはりここにいらっしゃいましたか。…美しき葡萄の女神がお二人に、忠義でハンサムな騎士が一人…。
まるでギリシャ神話の世界だ」
パナマ帽を取りながら優雅に挨拶するのは縣だ。
縣は現れるだけでその場が華やかになる相変わらずの美男子ぶりである。
縣を案内した若いメイドが縣を眩しげに見上げ、頬を赤らめながら膝を折り、去って行く。
「…縣様…!いつ伊豆へ?」
梨央は嬉しそうに近づく。
「先ほどパリから到着いたしました。我が家の別荘の家政婦が、お隣がお賑やかですよと教えてくれましてね。
もしかしたら…とお訪ねしたのですよ」
綾香は怪訝な顔をする。
「縣様の別荘はお隣にあるのよ、お姉様」
梨央が説明をする。
綾香はちょっと揶揄うように美しい眉を上げた。
「まあ!…さすがは縣様。今でも梨央に変わらずご執心なのかしら?別荘までお近いなんて…」
縣は綾香の皮肉めいた言葉など毛筋も気にせずに陽気に笑う。
「こちらの別荘を建てたのは先々代の祖父ですよ。もっとも、梨央さんの為に気候が良い地を探しておられた伯爵に、ご紹介申し上げたのは父ですが」
「あらそう。ごめんあそばせ」
わざとツンと澄ます綾香に悪戯めいた笑みを浮かべる。
「…麻布の温室では美しい女神二人の戯れを鑑賞できましたが、まさかこの伊豆の果樹園でも愛の女神二人の艶めいたお姿が拝見できるとは…田舎もあなどれませんね」
先刻の二人の愛の営みを眺めていたかのような縣の言葉に、梨央は身を縮めて綾香にしがみつく。



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