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月の川 〜真珠浪漫物語 番外編〜
第3章 月光庭園
月城は夜会から帰宅すると燕尾服姿のまま、真っ先に梨央の部屋を訪れた。
時計は12時を過ぎてしまっている。
…梨央様はもうお寝みになってしまっただろうな…。

ランプを片手にそっと扉を開ける。
静かに寝台に近づくと、梨央はきちんとブランケットを掛けてすやすやと眠っていた。
月城はその愛らしい寝顔にそっと囁く。
「…ただいま戻りました。…遅くなって申し訳ありません…」
跪きおずおずと梨央の清らかな額を撫でる。
ランプの灯りに照らされた梨央は人形のように美しく可憐であった。
「…お寝みなさいませ、梨央様…」
そっと立ち上がろうとしたその時…
月城の燕尾服の裾がつんつんと引っ張られた。
月城ははっとして振り返る。
「…本当に遅い!月城!」
瞳をぱっちりと開け、唇を尖らせた梨央が起き上がっていた。
「梨央様!…起きていらしたのですね」
「…だって、月城が早く帰るって約束したから…」
拗ねる梨央に月城は思わず微笑む。
寝台の端に腰掛けながら月城は詫びる。
「申し訳ありません。梨央様」
「…楽しかった?」
白いネグリジェの膝を抱えて、上目遣いで尋ねる。
「…そうですね。…とても華やかで素晴らしい夜会でした。…縣様にはお優しくしていただきましたし…」
「ふうん…」
不満そうな梨央に月城は優しく微笑む。
「…でも私は、梨央様とご一緒している方が何倍も何十倍も楽しいです」
「…本当?」
「はい」
梨央は恥ずかしそうに目を伏せる。
…が、ふいに膝立ちになり、子犬のようにくんくんと鼻を鳴らし、月城の燕尾服の上着の匂いを嗅ぎだした。
「梨、梨央様?」
梨央は月城の顔に顔を近づけ、その薔薇の蕾のような小さな唇を再び尖らせる。
「…香水の匂いがする…!」
「え?」
「いつもの月城の匂いじゃないわ」
睨む梨央に月城はしどろもどろに言い訳をする。
「こ、これは…ご挨拶させていただいた子爵夫人の香水が移ったのでしょう…」
「…綺麗なひと?」
膨れながら梨央は聞く。
「…ええ…華やかな方でした…」
「…ふうん…夜会はそんな方ばかりなのね、きっと」
面白くなさそうな声を出す梨央。
「けれど、梨央様のようにお美しくお可愛らしい方は一人もいらっしゃいませんでした」
驚いて目を見開く梨央に月城は笑いかける。
「月城には梨央様が一番お美しいです…」
「…⁈」
梨央は恥ずかしそうにブランケットを被ってしまった。
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