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背徳のディスタンス
第4章 欲望の行方
ーー優しい匂いだった。
仄かに香る石鹸の匂いに、奈々の胸が高鳴る。常夜灯の明かりの下、ベッドに横たわる奈々に覆い被さる影。
初めて好きになった人だ。初めて思いが通じ合い、付き合った人。その人と過ごす初めての夜。
幸福と切なさの入り交じった感情が、奈々の胸の内に溢れていた。
骨ばった手が奈々の髪を撫でる。くすぐったさに目を閉じる。その手がゆっくりと頬や首を下り、奈々の胸の膨らみに触れた。
その刹那。
瞼の裏に浮かんだのは、鬼のような形相をした両親の顔だ。
ーーおまえに男はまだ早い! そんなものに割く時間があるなら勉強して、もっと将来を考えろ!
ーーそうよ、結婚するわけでもないのに簡単に体を触らせるなんて……。淫らなのはいけないことよ!
奈々ははっとしたように目を開いた。
伸びてくる男の手が、名残惜しそうに引っ込んだ。自分が愛しい彼の手に怯えてしまっているせいなのだと、何拍か遅れて気付いた。
……罪悪感。奈々が小さな頃から教え込まれてきた両親からの言葉は、奈々が大人になっても彼女の心を蝕(むしば)んでいた。