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新月の闇 満月の光
第9章 流転の兆し


「はははは、何だか ……… 、凄い物騒な事書いてる ………… 」




乾いた笑いを吐き出す合坂と、




「由芽さんは、決して恨まれるような人では無い筈ですから、完全に逆恨みって奴ですよね ……… 。と、言うことは……… まさか、先輩 ……… 」




冷静に物事を判断する木坂。


木坂は亜依の事を知っている。


とは言っても、あいつの素行の悪さと、結芽の双子の姉だと言う事ぐらいな物だが、頭の回転が良い木坂は、瞬時に理解する。


だから、俺がこいつの言葉に応え無くても、こいつは微動だにしない。


対称的に、こ五月蠅いのが合坂で、きっかり無視を決め込んでいた俺では、一向に埒が明かぬと悟ったのか、ターゲットを木坂に変えて詰め寄っている。





手紙を見つめて、ふっと頭の中をよぎる映像。


それは、しとしと小雨が降る夜。


黒い服に身を包む面々が、現れては頭を垂れて去って行く。


真っ白な布団に横たわる、物言わぬ身体。


顔を覆う筈の白い布は、丁寧に畳まれて顔の横。


通夜に現れる隣人たちに混じって、ちょっとした知り合いの顔をして、喪主に声を掛け、焼香をしつつ奴を見る。


アイツを連れて逝った男の顔を拝むべく此処へやって来て、歪んだ笑いが込み上げる。


如何にも、気の弱そうな男。


喪主の女性を見れば、亜依に似た気の強そうな美女。


『矜持』と、あえて漢字を使って表すような負けん気の強い顔が、無言で死体を見降ろしている姿は、人々にはどう写るのだろう。





俺は、もう一度男を見やった。





あんた、本当にあの女を裏切ったのか?


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