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新月の闇 満月の光
第9章 流転の兆し


さめざめと泣く女を横目に、男を見る。


顔だけ傷が無く、全身骨折だったと聞く。


車が崖を落ちて行く過程で表に放り出された男の身体は焼ける事無く済んだようだ。


その時点で何となくだが、男と亜依が同じ場所へと旅だったのでは無いと思える。


男の姿は見るに耐えて、亜依の姿はそれに当てはまらない。


本人確認と言われても、男女の判別すらし難かった亜依の遺体。


黒こげの遺体は、歯の治療痕でしか判別できず、『志木 亜依さんの、遺体の確認をしに来て頂きませんか? 』と、警察から連絡が来た次第だ。


事は遺体確認と言うより、引き取りにこいと言う事だった。




── ごめんなさい、真紘。今更謝っても仕方が無いのは解ってる。取り返しの効かない事をしたって、彼を本気で愛した時、解ったの ──




あの時の、亜依の言葉が頭を過る。


許せなかった。


許してなんかやれなかった。


あいつの最初で最後の恋を、俺は許してなんかやれなかった。









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「先輩、御劒先輩」


「あ、あぁ、悪ぃ。考え事してた」




幾度も呼ばれて居たらしい。


木坂の呼ぶ声に我に返った俺は思わず謝罪の言葉を口にしていた。




「僕は全然良いんですけど、取り敢えず結芽さんに、ガード付けませんか? 後、この事、社長と結芽さんとおふたり交えて話し合わないと……… 」




木坂の意見は同感だ。




「ちょっとした心当たりがある。結芽共々来させよう 」




俺はそう答えるとスマホを手にした。


記憶済みの懐かしい番号に電話して、相手と話す。


二つ返事とは行かなかったが、結芽を伴ってやってくる事を確約し、電話を切る。


取り越し苦労になれば良いんだが。


俺はそう思いつつ、息を吐いた。

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