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新月の闇 満月の光
第4章 動き始める時間
結芽は、このプロダクションの看板タレントで、俺が担当する、『Yume』と言う名で活動している歌手だ。
彼女に歌を歌わせたら、『右に出る者は無い。』と、言われる程の実力派歌手。
彼女程の歌唱力を持つ歌手は、そう易々とは出ないだろう。
俺は、それ程の存在の女を縛り付けている。
マネージャーとしては失格だ。
商品に手を着けて、手放せないでいる訳なのだから…………。
いくら彼女とは、歌手になる前からの関係でも、今のままで良いとは到底思え無い。
俺は、思考を止めると、目前の社長室の扉を叩いた。
「どぞ~。開いてるよ」
高い声は、女のモノ。
言い忘れたが、義理母で実姉だ。
まぁ、ちょっとややこしい関係性なのだが、一応育ての母親だ。
と、言うのは社内では機密事項扱いされている。
この人、かなりふざけた性格だが、その辣腕ぶりは、内外でも一目置かれている。
そんな奴が、朝っぱらから何用なのか?
「来たぞ」
「相変わらず愛想の無い男だね。真紘、ちょっとあんた、ちゃんと御飯食べてんの? ……また、痩せてるじゃない」
「少しずつなら食べてる、これでも。柚芽のおかげでね……」
「難儀な子だねぇ。あれが死んだのは、お前のせいでは無いじゃ無いか。男の無理心中だったんだから……」
姉が、痛い所を突いて来る。
わかってる。
時間が経つに連れて、様々な事が浮き彫りになって来て、結果、俺は、全て独りで抱え込んだ。
警察に遺体を確認しに行ったのも俺だけにした。
柚芽には、何も言えなかった。
言える訳が無い。
姉には知られる所と成ったのだが、そんな姉でも、ショックでおかしくなった俺の事は救えなかった。
其れだけひどかったんだ。
「社長。そんな話をする為に、俺を呼んだのか?」
俺は、無理矢理話題を変える。
俺の事等、正直、どうでもいい…………。