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Vesica Pisces
第9章 太陽は静寂を焦がす
「そこらの女と一緒の扱いしたら許さねぇから」

「何様だよ」

「保護者様、あと俺、未知の他に目移りしねーからそこは安心していいよ」

「うっせ」

「じゃあな、ほったらかしにすんじゃねーよ?」

「…わかってる、嘉登…、…ありがと」

「素直でよろしい」

嘉登の電話が切れると、ふっと一息ついた。

自分自身の気持ちなのに、他人の方がよく気づく。

「トオル、先に行くぞ」

「すぐ行く」

ドアの向こうから声を掛けられて、窓辺に立つと澄み切った青空が広がっていた。

この空はどこまで青いのだろうか。

伽耶の上に広がっている空は何色だろうか。

同じ太陽を見つめているだろうか。

そんな風に同じ時間を過ごしたいと思った事はなかった。

誰かに固執するなんて、馬鹿らしいとさえ思っていたから。

一瞬の快楽があればいい。

「人間って最高に都合が良すぎるわ…」

思わず声に出してしまうくらい、自分に呆れた。

練習に向かう車に乗り込んで、流れて行く景色を見つめて、居るはずのない姿を探す。

重症だ。

「トオル?」

自嘲した笑いは誰かの耳に届いてしまうくらいで、誤魔化す事さえ忘れて首を振って無かったことにした。
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