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Vesica Pisces
第10章 太陽は静寂を包む
腹もいっぱいだったし、風呂上りになんか飲むかと冷蔵庫を開ける。

飲み物だけは充実した冷蔵庫。

メールの返信をして、ふとタオルの在り処を教えるのを忘れていた事に気付く。

そそくさとバスルームに向かうと丁度シャワーの音が止まった時だった。

戸棚から出したバスタオルを見えるところに置いてやる。

ドライヤーを手に取って戻ろうとした足が止まる。

「…お…ぅ…、た…ぉ…ぅ…」

静かに、確かに反響する音。

「…と、…と…ぉ…る…?」

ちゃぷんと水音が立ち、静まり返るバスルームからそっと出た。

細心の注意を払ってドアを閉める。

伽耶の声。

初めて聞く伽耶の声は確かに名前を呼んでいた。

忘れた音を手繰り寄せて紡いだのが自分の名前。

どうして忘れたなどと言ったのか。

どうしてそれでも名前を呼ぼうと思ったのか。

「ずりーわ…っ!」

ソファーに膝を抱えて座っていると、湯気を立てた伽耶が出てきた。

ソファーの前、膝の間に座らせると濡れた髪を乾かしてやる。

正面には点いてないテレビ。

「…何で声出せること黙ってたんだよ」

点いてないテレビ画面は鏡の様に反射して、視線をあげると伽耶は目を見開いていた。

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