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Vesica Pisces
第10章 太陽は静寂を包む
入る時には無かったバスタオル。

いつの間に用意してくれたのか気付きもしなかったけれど、声はそんなに出してないって思い込んでいた。

『お風呂、ありがとう』

「髪、乾かしてやるよ」

座っていたソファーの足元に促されて、ドライヤーの風を当てられる。

髪を乾かしてもらうなんて子供の頃以来でなんだかくすぐったい。

正面のテレビに映る透は真剣な顔をして髪を乾かしていた。

手は忙しなくドライヤーを当てていたし、視線も下がったまま。

なのに。

「…何で声出せること黙ってたんだよ」

何気なく零したそれが一番響く。

気付くことを前提にして言ったのだと、そしてそれは同時に嘘がバレた事になる。

「はい、おしまい、それで?」

詰るでも、呆れるでもないいつもの透。

返す言葉が何も浮かばない。

「…風呂入ってくるわ」

引き止める事も出来ずに透の背中を見送った。

その場に座ったまま、何をどう話せばいいのか、そればかり考えていた。

“何をどうしても好きでいるだろうよ”

吉信の言葉を思い出し、透がお風呂から上がるのをじっと待っていた。

透になら、話せる。

透なら、きっとこんな私を…。
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