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Vesica Pisces
第14章 太陽は静寂を切り裂く
そばに居ても何も出来ないってわかってる。

でもそばに居たかった。

「…頼むから、帰って…」

そんな顔で言われたら。

一人にしたく無いのに、帰るしかなかった。

然らの転倒を目の当たりにして、正直目の前で透があんな風になったらと思うと恐いと思った。

でも、不思議とそれ以上に目の前で見たいと思った。

誰よりも高く、巧く飛んで、その人は自分の恋人なのだと。

ヘルメットを取った透はきっと最高の表情で笑ってくれるだろう。

家に帰ると昌樹がリビングから意外そうに振り返った。

『ただいま』

「早かったな」

『西原さん、大丈夫なのか?』

昌樹から然の名前が出るなんて、もっと意外だった。

「たまたま…テレビ点けたらやってたから見ただけだからな」

『然くんなら大丈夫だって言ってたよ』

「…他、誰が大丈夫じゃないんだよ?」

昌樹のそれに直ぐ否定の言葉が出て来ない。

「伽耶、一人で溜め込むな、お前が彼奴を心配する様に、俺たちもお前が心配なんだ」

昌樹の言葉に頷く事しか出来ない。

「明日も仕事だろ?早く休めよ」

ベッドに入ると、帰り際に見た透が浮かんで来て、どうしようもない気持ちに無理矢理目を瞑った。
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