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Vesica Pisces
第15章 太陽は静寂を超える
きっと

いつかが今になる。

もう行くね。

✳︎ ✳︎ ✳︎

体を離した透はいつもの透に戻っていて、手を繋いだままあてどなく歩いた。

ふらっと立ち寄ったお蕎麦やさんで食事をした時も、透は相変わらずひっきりなしに入ってくるメールに辟易していた。

「月曜日からオーストラリアに行く」

『然くんのお見舞い?』

「ピンチヒッターで仕事、然は時間があったら顔見てくる」

透は無意識かもしれないけれど、なんだか言葉が続かなくて透が読めないでいた。

店を出れば透の右手は無言で呼んでくれてぎゅっとその手を握った。

この手のひらから思っていることが響いて来ればいいのに。

「うち、寄る?」

『泊まっていい?』

「大胆デスね」

『じゃあ帰る』

「帰すわけねーじゃん、男はおおかみなんですー」

透の拗ねる顔は可愛い。

部屋に入るとコーヒーをセットした。

『荷物があるんだ』

いつも軽装の透にしては珍しくスーツケースが開いて置いたあった。

それでもスーツケースは二泊三日程度の荷物が入る大きさだった。

『仕事って…どんな?』

「プロモーション撮影、ボツったヤツの撮り直しだから場所も劣悪だし、時間もねーんだって」

まるで他人事のように言ってのける。
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