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Vesica Pisces
第15章 太陽は静寂を超える
『劣悪ってどんなとこなの?』

「珍しく食い付いてくるな」

聞いて答えてくれればそれでいい。

「オーストラリアはもうオフシーズンに入るから、雪の状態が悪いんだよ、固まってたり…最悪、気温差で雪崩とかある」

雪崩…。

「まあ一発撮りだから、関係ないね」

お風呂のスイッチを入れにキッチンへ向かう。

下のミニキッチンの方が食器類は揃っているんじゃないかというほど、プライベートキッチンにはグラスと一緒に揃えたマグカップしかない。

お湯を沸かす片手鍋に沸き上がる気泡を見つめていた。

「何考えてんの?」

隣に立つ透が覗き込んでくる。

『…何で急に会社まで来たの?』

「別にー、向こう行く前に顔見ておくかと思って」

『有馬さん達と何話したの?』

「何で別れたのか」

『それで?』

「…湯、沸いてる」

透は会話を遮ってマグカップに湯を注ぐと、コーヒーの香りが辺りに立ち込めた。

「お前が心配なんだよ」

初めて聞いたらしくない台詞。

「俺は良いんだよ、好きなことしてるだけだし、でもお前は…違うだろ?泣くなよ?俺のせいで」

『泣かないよ』

「まぁ…そう言うよな」

透は持っただけのマグカップをそのまま元に戻した。


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