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Vesica Pisces
第16章 太陽は静寂を憂う
無事なら他に言うことはない。

「タケルとヨシトには連絡できたよ」

そこから伽耶に伝わってればいい。

「低体温って俺そんな見つけてもらえなかったの?」

「まあね」

「何で見つかったわけ?」

ベッカーが顔を合わせた後にポケットからそれを取り出してみせた。

金色のスプーンに、紅いベルベットのリボン。

「これが反射してたんだよ」

手の中に戻ってきた小さなそれ。

あぁ、こんな時にも伽耶が護ってくれたのだと。

ちゃんと帰って来いと、約束を守れといってくれている気がした。

手の中に戻ってきた小さなスプーン。

連絡が取りたくてもスマホが禁止されている病棟で、大人しく夜まで待つしかなかった。

撮影に向かう前にメールをしたきり、それから二日も音沙汰なしだ。

それから、MRIやら血液検査やらとたらい回しにされた挙句、結局異常なし。

すぐに病室には戻らず、上層階のカフェで空腹を満たした。

夕焼けはもう地平線を薄っすら照らす程度で、すっかり夜を濃くしていた。

日本はもうすぐあの夕焼けに染まるのだろうか。

呑気に食べている場合じゃなくなって、早く一般病棟へ移って伽耶に無事を知らせたいと思ったら、エレベーターに向かっていた。
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