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Vesica Pisces
第16章 太陽は静寂を憂う
忘れていた記憶を引っ張り出す。

中学から聾学校に通う様になって、聴こえないという現実と、慣れない環境の中で、過ごす日々。

当たり前に出来ていた事につまづく度、自信を失っていく。

限られた世界で、静かに過ごす。

高校生の時に初めて彼氏が出来たけれど、臆病になっていた二人に狭い世界は広がる事は無かった。

仕事を始めても、健常者との見えない壁はただ笑顔を浮かべるだけで、踏み込む事はなかった。

そんな私の前に現れたのが支社から転勤して来た侑一だった。

突然止まった通勤電車で、電光掲示板は見えない。

満員電車でスマホを取り出すのもままならない時、肩を叩いたのが侑一だった。

拙い手話で状況を説明し、会社に連絡まで入れてくれると、御礼ならとランチに誘われた。

小さな所用を作っては多部署なのに顔をだし、出張に行っては皆んなに配る様にとお菓子を買ってきてくれる。

それを配りながら、同僚たちとの会話になる。

それを話すと侑一は頭をぐしゃぐしゃに撫でて褒めてくれた。

侑一が社内でもモテる人だとわかっていた。

だからずっとその気持ちを隠していたけれど。

「俺は松重伽耶が好きだよ」

侑一の告白は真っ直ぐなものだった。
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