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Vesica Pisces
第19章 太陽は静寂に添う
思い出したりしない

だって

忘れないから

✳︎ ✳︎ ✳︎

道を違えて向かったのは透の家だった。

脱いだヒールを綺麗に拭くと、改めてそのキラキラに目を奪われていた。

「行くぞ」

「ん」

返事をしたものの、その場を離れるのは何だか惜しくて、足が動かない。

「きゃあ」

痺れを切らした透に抱え挙げられて、さっさとリビングへと進んでいく。

リビングのソファーに降ろされると、透も隣に腰を下ろした。

左手の薬指に光るダイヤの指輪。

シンプルなその指輪の輝きは、世界中のどんな指輪より1番綺麗だ。

手を傾けるたびにキラキラと光る。

その輝きを一心に見つめていると、途端に視界に覗き込む透が入ってきた。

『なに?』

「いつまで見てんの?」

『ずっと、かな?』

「返してもらおーか」

ずいっと手を差し出す透。

『やだやだ』

さっと左手を隠して、でもまたすぐそっと見てしまう。

「指輪なんてやるんじゃなかったー」

舌打ちした透は、そのまま膝の上に寝転がった。

『透、ありがとう』

「じゃ、ちゅーして」

そう言って唇だけを突き出す。

「ほらほらちゅーだよ、ちゅー」


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