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Vesica Pisces
第6章 太陽は静寂を引く
後戻りなんて、するわけない。

思い出す?

忘れてもいないのに。

✳︎ ✳︎ ✳︎

「…っは、ぁ…」

唇が離れると漏れる吐息が伽耶の心から溢れたものなら、誰にも聞かせたくないと思った。

頬を包んで、視界に映るのは自分だけでいいと。

回数を重ねる毎により深く、より長く。

「…ンンッ…」

嫌々と頭を振る伽耶は、一瞬唇を話すとすぅっと大きく息を吸った。

窒息すればいいのに。

ズルッと力の抜けた伽耶はその場にへたり込む。

透もまたしゃがみ込むと、シンク下の扉に両手を突いて腕の中に伽耶を置いた。

ため息の様な呼吸と胸に置いた手に何故か苛立つ。

唇を塞ぐと、伽耶の手が胸から離れた。

そのまま、またいつもの様に宙を彷徨って、ぎゅっと握ったままと床に落ちた。

その動作はたった一言よりも雄弁で、その心にいる誰かを悟るには十分過ぎた。

離れていく唇を互いに見つめる。

片方は切なさを孕んで。

片方は切なげに歪んで。

涙を張った様な映し鏡の瞳に伽耶は息を呑む。

それでもその手は自分を求めてはくれない。

何故そこまで伽耶に執着するのか自分でも解らない。

ゆっくり立ち上がると、並々と注がれたコップの水を飲み干した。
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