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Vesica Pisces
第6章 太陽は静寂を引く
流れ行く人波は一様に同じ方向を向いている。

三が日で何十万人が訪れるという有名なその神社。

少し遠い駐車場から並んで人波に乗った。

歩道にずらっと並んだ屋台に胸が踊る。

「初めてって何で?」

『夜は…読み辛いし見え辛いのもあるし、周りを気にしながらだと危ないので』

初めての日跨ぎの初詣。

渋滞に足が止まる度にそばの屋台を覗き込むと、透は笑って揶揄った。

「めっちゃ花より団子じゃん」

生い茂る大木が見えてくると空気が少しずつ変わっていく。

夜の闇に溶けて境目のわかり辛くなった木々の葉先に、少しだけ恐怖を感じる。

思わず掴んだ透のコートの裾。

「子供か」

玉砂利を踏みながら薄暗い山道をゆっくりと進んでいく。

「うわー…やべぇくらい混んでるわ」

時計を見ると23時50分。

ぎっしりと詰められた人、人、人。

押しくらまんじゅう宛らで、少しずつしか進まない。

「大丈夫か?」

手を上げることも出来ず、うんうんと頷いてみせるだけだ。

やっと参拝まで辿り着いた頃には、せっかくまとめた髪もボロボロになっていた。

賽銭を入れて手を合わせる。

家族の健康と、友人の幸せと…いつもの願いにもう一つ上乗せした。
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