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Vesica Pisces
第9章 太陽は静寂を焦がす
好きって何?

きっと

あなたの事だと思う。

✳︎ ✳︎ ✳︎

部屋に入ってそこがダブルだとわかった途端、緊張感に身体が固まった。

自分が大それた事をしたのだと、とっくに成人した大人な筈なのに柄にもなく立ち尽くしてしまった。

ベッドに腰掛けた透がサイドテーブルに置いたのは、財布とスマホとパスポートだけ。

「何?」

脱いだコートを胸に搔き抱いて、慌てて首を振った。

着替えを鞄に詰めるのも惜しんで飛行機に飛び乗ってくれたかと思うと、少しくらい自惚れても良いのかなと頬が緩む。

「風呂は?」

『お湯はってきます』

ユニットバスにアメニティーの入浴剤を入れてお湯を張る。

湯船の端に座ってふんわりと立ち込める良い香りに包まれていた。

「ずっとそこに居る気かよ」

透の手にはいつの間に頼んだのか、ルームサービスのカレーライスが載っていた。

いつもの夕飯時間はとっくに過ぎていて、今更空腹を覚える。

「お前のはあっち」

窓際のテーブルにはスパゲティミートソースとシーザーサラダが置いてあった。

『いただきます』

向き合って食べる夕食はあの日のおでんよりずっと近いものだった。

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