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こじらせてません
第2章 馴致

不自然な所作だがやむをえまい。
ソファへアキラを残し、ジリジリと距離を取っていった。
壁に備えられたミラーへ全身を映す。横目で見る。
(かみー!)
溶けていたので、髪がボサついていた。
実験を失敗した科学者ほどではなかったが、幻滅させてしまったのだろうか。
「ちょっとウトウトしてたんだ」訊かれてもいないのに言って、ボサついているのだからかきあげても意味はないので、手櫛で整えながらアキラの隣へ座った。「……アキラくん、帰ってないの?」
話をそらしたく言ったのだが、それにしてもアキラは制服のままだった。渋谷から、ここへ直行したのだろうか。
お母さんは?
「はい……」
「こんな遅くに出歩いて、おうちの人、心配しないの?」
今日、母親を見てしまったから、これまで遅い時間までさんざん部屋へ連れ込んできたのに、いまさらになって問うた。
「はい、……大丈夫です」
「お母さん、とか、心配するでしょ?」
「……それは、大丈夫です」アキラは少し間を置き、「僕が小学校のときに両親が離婚して、父に引き取られたんで……。父からは、あんまり母に会うなって言われてて……」
言いづらそうだ。訊いて欲しくないことを、訊いてしまったのかもしれない。
なるほど。父親の目を盗んで、母親と会っているということだ。
「そっか……。ヘンなこと聞いてごめんね」
ミサはアキラの頭を撫でた。
そんな哀しい事情を知らなかったとはいえ、尾行なんていうマネをしたことが猛省された。
(……ひっ)
きゅうと心臓が締め付けられつつ撫でていると、アキラがその手首を取ってきた。
「え……、どうしたの? ……いっ」
手指がピクンと跳ねた。
アキラが手の甲へキスをしてきたのだ。
(王子……?)
勝手に手を取られたのだが、たしなめる気にはなれなかった。
その1、すなわち挨拶をしている――わけはなかった。
彼は、母親と別れてきたばかりだ。
「アキラくん、おいで」
ミサは懐を開いた。
手の甲から顔を上げたアキラは、ソファへかけなおしてミサへ寄り添うと、額を首筋にくっつけてきた。
少しかぶりを振った。スリスリされている。
とんでもなくかわいい。
ソファへアキラを残し、ジリジリと距離を取っていった。
壁に備えられたミラーへ全身を映す。横目で見る。
(かみー!)
溶けていたので、髪がボサついていた。
実験を失敗した科学者ほどではなかったが、幻滅させてしまったのだろうか。
「ちょっとウトウトしてたんだ」訊かれてもいないのに言って、ボサついているのだからかきあげても意味はないので、手櫛で整えながらアキラの隣へ座った。「……アキラくん、帰ってないの?」
話をそらしたく言ったのだが、それにしてもアキラは制服のままだった。渋谷から、ここへ直行したのだろうか。
お母さんは?
「はい……」
「こんな遅くに出歩いて、おうちの人、心配しないの?」
今日、母親を見てしまったから、これまで遅い時間までさんざん部屋へ連れ込んできたのに、いまさらになって問うた。
「はい、……大丈夫です」
「お母さん、とか、心配するでしょ?」
「……それは、大丈夫です」アキラは少し間を置き、「僕が小学校のときに両親が離婚して、父に引き取られたんで……。父からは、あんまり母に会うなって言われてて……」
言いづらそうだ。訊いて欲しくないことを、訊いてしまったのかもしれない。
なるほど。父親の目を盗んで、母親と会っているということだ。
「そっか……。ヘンなこと聞いてごめんね」
ミサはアキラの頭を撫でた。
そんな哀しい事情を知らなかったとはいえ、尾行なんていうマネをしたことが猛省された。
(……ひっ)
きゅうと心臓が締め付けられつつ撫でていると、アキラがその手首を取ってきた。
「え……、どうしたの? ……いっ」
手指がピクンと跳ねた。
アキラが手の甲へキスをしてきたのだ。
(王子……?)
勝手に手を取られたのだが、たしなめる気にはなれなかった。
その1、すなわち挨拶をしている――わけはなかった。
彼は、母親と別れてきたばかりだ。
「アキラくん、おいで」
ミサは懐を開いた。
手の甲から顔を上げたアキラは、ソファへかけなおしてミサへ寄り添うと、額を首筋にくっつけてきた。
少しかぶりを振った。スリスリされている。
とんでもなくかわいい。

