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こじらせてません
第2章 馴致
「いいえ」

アキラが顔を上げた。
下方からせり上がってくると、優麗な顔立ちに視界が覆われた。

「すごく、カッコいい……っていうか、なんていうか、キレイで、びっくりして」

鼻先で鼻先をつつかれる。
ミサが少し唇を緩めると、塞いできた。

幾たびかはんだあと、舌が入ってきた。これもいつもより熱っぽい気がした。
彼が玄関で目を見開いた理由がわかると、舌が歯先へ触れるだけで、背すじがざわめく。

ふだんアキラの前で服装をイキろうと心がけていたぶん、ギャップを埋めてしまったようだ。思春期は何が奏功するか、わからないものだ。

「……エッチ、がまんできなくて、来たの?」

「もう時間、遅いよ」と言われた程度では、抑えきれないのも、無理はないのだ。思春期のペットをしつける、ということは、これくらいは軽くこなさねばなるまい。

「ちがいます」

だが、言下に否定された。

唇を離し、彼を見つめた。
眉が寄った。その2のキスだというのか。

「……どうしても、ミサさんの顔が見たかったんです」

たしかに、その2でした。強烈なやつ。

「ありがと」しかし、胸が潤まされるほど、底には泥が澱んだ。「私も、アキラくんの顔、見たかったよ」

今日、自分は、もう既にアキラの顔を見ていた。こっそりと。
不意打ちで吹っ飛んでいた慚愧が舞い戻って、さっきよりも重く沈殿してきた。

アキラの手は、バストの下端で止まっている。

ミサは勇者ではなかった。
だから、初めての日からずっと、アキラの前で裸体を見せてはいなかったし、必要以上に触らせてもいなかった。

アキラの肩を押して離れると、ソファに横座りのまま、背を伸ばした。
鼻からゆっくり息を吐き、カーディガンの前を開いた。

「でも、ちょっと、油断してて。ブラしてない」
「うん……」

何の「うん」かはわからなかったが、アキラの両手を取ると、タンクトップの裾を掴ませた。

「……いい、んですか?」
「べつに、見たくない?」
「すごく、見たいです」
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