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こじらせてません
第1章 捕縛
父方の祖母は、他界するまで一緒に暮らしていた。父は最後まで祖母には頭が上がらなかったし、母にとっては姑であるのだから、なおさらだった。ミサの情操教育を受け持ったのは、もっぱら祖母だった。

謹厳な人だった。
そして、その謹厳さをミサにも求めた。

これだけを聞いたならば、世間一般的には、さぞかし老害による圧屈に満ちた半生を歩んできたんですね、と思う人がいるかもしれない。

だが違う。理由がある。
祖母は敬虔なクリスチャンだった。

入信するか否かは本人に任せる、というのが信条だった。だから父は信者ではないし、自分に対しても入信を強要することはなかった。

ただ、祖母が教義に照らして考える「正義」が、おそらくはほとんどの人にとって高潔すぎた、ということだ。

正直、息苦しかった。何故にこんなにも疲れる生き方をしなければならないのか、疑問を感じないわけではなかった。

とはいえ、祖母は常に理路整然としていて、疑問を拭うための疑問を挟む余地すらなかった。

祖母の言うことは、一義的には正しい。辛苦を嫌うあまり、根本を覆そうとするよりも、その体現に向けた努力をするほうが、よほど効率的かつ有意義なのではないか。

中学くらいになると、もう自然と、そう思えるようになった。

何より慣れた。であるから高校までずっと、祖母が勧めたミッション系スクールへ通うことにも、抵抗も苦痛もなかった。

ところで、ミッション系スクールは世間一般的に、校則が厳しいというイメージがあるが、常識的に考えて全てがそうではない。

しかしミサの学校は、イメージに該当した。
ミサだけでなく、信者でない同級生もいたが、当然、校則は生徒全員に適用された。

思春期というものは、希望して入学してきておきながら、何故か校則を「強制」と捉えて、不自由への抵抗を試みるものだ。

スカートを短くしようとしたり、ヘアカラーをしてみたり、道草を断行してみたり。

校則とは「べし集」「べからず集」の総体であるが、「べし」をやらなくてもほぼ咎めはないのに、「べからず」をしでかせば罰が下ることになっている。そして校則違反は、禁を破る方が圧倒的に多い。
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