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こじらせてません
第1章 捕縛
だがミサは、校則が不当だとは思わなかった。
「お洒落をしてみたい」「遊びたい」という願望がなかったわけではないが、その欲を満たすために払うリスクと労力が、とても釣り合うものだとは思えなかったのだ。

「べからず」と言っているのだから、やるべきではない。
それでよかった。

なので、十二年間、実に素行優良な生徒だった。

やるべきではないことを、やらなかったので、その分の時間を学業にあてた。だから成績面でも同様だった。

そのせいかどうかは判然としない。
また、させる必要性も、今だに見当たらない。

ミサは常に「第三グループ」だった。
成績と身長では頭一つ出ていたが、それ以外では目立たなかった。

それでよかった。

この成績と内申をもってすれば、提携する女子大への推薦も叶ったが、大学に関しては都内の高難度私大を選び、つつがなく合格した。

別に世界を変えようと思ったわけではない。実際変わらなかった。変えようとも思わなかった。

それでよかった。

遊んでばかりだと言い切れる連中は周囲にいなかったが、もちろん遊んでいる奴らはいた。

合コンとか?

ミサも誘われたが、大学に入ってすぐに黒居と知り合っていたから、行く必要はなかった。

それで、よかったのだ。

つつがなく入学できたミサは、特筆するべき何事もない、つつがない大学生活を過ごし、つつがなく卒業して大手化粧品メーカーへ就職を果たした。

というわけで、ここの社員なのだから、応接室に向かう廊下を歩いている。

「おい、高橋」

応接前にはソファと観葉植物が置かれた待ち合いスペースがある。その名のとおり、面会人が出迎えて部屋へ通すまで、来客が待つための場所だ。
そこには一人しかいなかった。間違いなく、この人物は来客ではない。

「あ……」
「なんだよ、その顔」

呼びかけておいて、顔がどうかしている、とは失礼な話だ。

ミサに笑いかけたのは、同期の安原だった。糾弾してやろうかと思ったが、心当たりがあったので、やめておいた。

土日に溶けているあいだに、「黒居ショック」と名付けることにした今回の一件が、ミサに落とした影は二つある。

祖母の教育方針には何ら異義を唱えて来なかったし、たえがたい不満は、ほぼ、なかったのであるが、唯一、祖母を恨むことがあった。
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