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こじらせてません
第3章 幽閉
「……あんまりじろじろ見ないで」

かといって、チラチラ見られたいわけでもなかった。

そもそも、見せるためにメイクを落としたのだから、隠しては意味がない。
だがいったい、どういった見られかたが望ましいのか、見つめられていくうちにわからなくなっていた。

「見たいです」
「……ガッカリした?」

「いいえ。いつもキリッとしてるのに、なんだか――」
「……ボンヤリした?」

「いいえ。いつもキレイなミサさんなのに、なんだか――」
「ううっ……」多少、あいだに飛躍を挟んで演繹したミサは、マスカラを落とした睫毛を震わせ、「……。……ブ、ブ……ブサイクになったかな?」

「いいえ」

この即答が世辞か否かを確認する手間を端折らせるように、アキラが頬へキスをしてくれた。

「お化粧していないと、すごく、可愛いです」

そのまま、囁かれる。
当然、股ぐらの下から言われるよりも、耳元で熱い吐息とともに言われるほうが、気恥ずかしさが段違いだった。

「んっ……、化粧品会社に勤めてるんだから、そんなこと言わないで。け、化粧する意味なくなっちゃう」

気恥ずかしさが、そんな言いがかりを生んだが、

「どっちのミサさんも、好きです」

アキラのひとことによって、他者承認欲求とも、自己承認欲求とも、美の希求のためのツールが無関係にされた。

「……。もう一回言って」

職務を否定されても、かまわなかった。
こめかみに触れていた、その2のじゃれつきが、その3として深く口腔に差し込まれた。

「大好きです。ぜんぶ」

もう、涙腺に完全復帰してもらってよい。

ミサは、指先を首筋から下方へたどらせて、紫の布地の膨らみへ手を添えた。

「……そろそろ、出したい?」
「んっ、……はい」

アキラが口から返答するまでもなく、指を触れた瞬間に、神威が頷いていた。

「じゃ……、いれ……」言いかけたが、やめて、言い直した。「はいりたい?」

フィクションの性愛でよく用いられているのは「いれたい?」だったし、ミサの本心としても「いれてほしい」だった。
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