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こじらせてません
第3章 幽閉
「美しいあくび」をした彼女のために、コーヒーを煎れようかと言ってくれたのが嬉しかった。なので、思念で唸りながらも、思い出しニヤケで顔が緩みそうだった。

ミサはことさらに息をついて、メガネを外し、サイドテールにしていた髪を解いて頭を揺すった。

スマホを多用しているが、視力は悪くなかった。ブルーライト対策用の物である。しかもブルーライトが心配になるほど長い時間、パソコンに向かっていたわけではない。また、たかがそれほどの時間であるから、わざわざサイドテールにするほど、髪が邪魔だったわけでもない。

ここ数日――、というより、暮らし始めてから毎日、仲良くするとミサはアキラにトロトロにされていた。

トロトロというと、幾ぶんの粘度を含んでいる感があるが、アキラの指によって導かれてしまうのは、もっと水気に満ちた状態だった。

……くるぶしまで飛んでいるのが肌に感じられたときは、
はしたなく思ったし、
はずかしく思ったし、
ペットたるアキラを自分が愛玩したいのに、なんとなく、彼が駆使する指に翻弄されているようで、くやしく思った。

自分はあるじたるオトナの女で、アキラはペットたる少年である。

このままでは安く見られてしまうのではないかと思って、今日は、「少し、仕事するね」と、ノートパソコンを開いたのだった。

メガネが似合うと言われたことがある。理知的に見えるらしい。
髪を下ろしていると、隣のアキラからは見づらいであろうから束ねたのだった。

「……終わったんですか?」
「うん、終わったよ。……ンーッ、……っと」

両手を組んで、腕を前へいっぱいに張り、背を伸ばした。
つまり、「美しい伸び」をした。

本を閉じたアキラは、

「おつかれさま……。コーヒーもう一杯、飲みますか?」

と尋ねてきた。

「んー、やめとこうかな。あまり飲むと、また寝れなくなっちゃうから。ありがと」

寝不足なのはコーヒーのせいではない。

「お仕事、大変なんですね」
「まあ、仕事っていうか、たんに調べ物だったんだけど」
「なんか、難しそうな資料、見てましたね」
「ん? そんなに難しいものじゃないよ」

難しい問題だった。
そして、どう訊こうかと考えあぐねていたから、グッドタイミングだった。
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