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こじらせてません
第3章 幽閉
また、自分から声をかけてきておいて、失礼なことを言われた。そんなだから、大根なのだ。

今日は、安原に対して疚しいわけではなかったから、

「どうしたよ、って言われても、何もないけど」

と言った。

「最近、よく早退してたって聞いたぜ。もう体大丈夫なのかよ」
「あー……、うん、大丈夫。ありがとう」

心配してくれたらしい。
女性特有の体調不良に対する男性社員のデリカシーというものを取り沙汰したいところだったが、事実、早退の理由はそれではなかったから何も言わず、便利な形容動詞とともに、礼だけを言った。

「そっか。……やっぱ高橋はマジメすぎるんじゃないか? 勤務時間以外でも、仕事のこと、考えてんだろ」
「そんなことないけど」
「つってて、昨日もあんなメッセージよこしてくるしさ」
「あ、あー……」

……なんだか疚しくなってきた。

「うん、突然ごめんね。変なこときいて」
「まあ、あまり役には立たなかったろうけどな。……ちょっと、いい?」

安原に自覚があってよかったな、と思っていると、疚しさのあまり不機嫌そうな表情を解いたミサを見て、正面の椅子に腰掛けてきた。

「どうしたの?」
「ああ、話があってさ」

何だろう。
営業部と調整しなければならない案件はなかったはずだ。

「ん? 何の話?」
「んっとさ、高橋、今日時間ある?」
「えっと……」

ミサはタブレットを開いて午後のスケジュールを再確認しつつ、

「三時半からなら、今んとこ、終業まで空いてるけど」

と予定を教えてやった。

「いや」

安原はテーブルに腕を置き、両手を組んだ。

足を開いた男らしい座り方は、「美しい座り方」とは言いがたかったが、気っ風がいい彼には似合っていた。むしろ男ぶりが上がると思う。

「仕事終わってから、なんだけど」
「……あ、そう。……そうなんだ」

仕事が終わってからのスケジュールは、タブレットから参照できる社内スケジューラには書かれていない。画面を消してテーブルに置いた。

「ちょっとさ、メシ行かない?」

相槌を打っただけだから、会話ターンは自分にあると思い、返す言葉を考えていると、先に安原が具体的用件を伝えてきた。

「……んと」ミサは髪を耳にかけ、「誰か帰ってきてるの?」
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