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こじらせてません
第3章 幽閉
入社してからこれだけ年数が経つと、本社以外に散らばってしまった同期も多い。何かの用事で来ていたり、転属で戻ってきたりすれば、親睦を懐かしむために、飲みに行くことがある。

「いや、誰も帰ってきてないぜ?」

その可能性は打ち消された。

「じゃ、んと」ミサは逆の髪も耳にかけ、上目遣いで、伺うように大根を見た。「二人で?」

するとようやく、ミサの懸念を察した安原は、爽やかに笑って首を振った。

「あ、そっか。そういうこと? いや、二人じゃないって。そんな、何年も前の失敗、蒸し返さないでくれよ」

ならば用件を伝える際に、「誰々とメシに行かない?」と言うべきだ。「誰々」を勝手に省略したのはそっちである。いくら爽やかだからって、勧誘の手法を間違えて許されるわけではない。まったく、そんなんだから、大根なのだ。

「そうだよね。で、誰が来るの?」

不本意な侮辱を受けたとはいえ、それで罪の量定が相殺されるかは不明だったが、ミサにも疚しさの件があったから、これでおあいこだ、と水に流すと、

「……」安原は、笑顔のまま、不自然な間を置いた。「昨日、三宅に誘われてるんだ」

問うたものの、ミサは行く気はなかった。家でペットが待っている。

「……」

先に、行く気がない意志を伝えればよかったと、甚だ後悔した。一緒に行く者の名を聞いてから断ると、それが原因だと思われてしまう――そのとおりなのだが……。

「ええと、ちょっと無理かなー」両親へ伝えたときと、同じ誤解を受けかねなかったが、仕方がない。「ペット、飼いはじめたんで、早く帰ってあげないと」

「あ、そうなの?」

風説が頭に浮かんだのかもしれなかったが、深耕してこなかった。

「でもなんとかならない?」深耕しなかったが、引き下がりもしなかった。「頼むよ。俺、三宅ちょっと苦手なんだよ」

安原に一度でも、理絵子が得意だ、と言ったことがあったろうか。記憶にない。

「えっと」意図的に、困ったはにかみを見せ、「私も、三宅さん、そんなになんだけど」

曖昧に言うと、安原がうんうんと頷いた。

「てか、俺、なんで突然誘われたんだろう?」
「知らないし、そんなの。安原くん以外にも誘われてるの?」
「いや、たぶん……、俺一人」
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